小説『ザ・アート・オブ・ウォー(原題:The Art of War)』は、戦争の完全攻略ガイドブックに近いような、読み応えがしっかりある一冊です。人間同士のあらゆる揉め事は、戦争に発展し、今もなお続いていますが、中国春秋時代を生きた孫子の兵法はいかに洗練されていて、時代をはるかに先取りしていたことがわかります。敵とどう戦うかの指針を持ち、その指針が現代でも通用することは、当時としては大きなアドバンテージであったことは間違いありません。

本作には、敵を美しく破壊するために留意すべき技法がまとめられています。すべての戦争は常に欺瞞に基づいているとしたうえで、完璧な作戦、ハッタリや愚かさを瞬時に装うこと、軍隊に対する徹底した自制心の促しとインセンティブによる満足度の維持、司令官の存在などが重要だと述べています。特に、司令官の存在については、兵士らが司令官にどのように影響を受けるか、兵士らの感情が司令官からどのように影響されるかがポイントだそうです。また、鳥を使って、敵が特定の場所を押さえたかどうかを判断することもできると記されています。もし軍隊が確実に死ぬ運命にあるならば、その決意はひとつだけとし、勝利がないならば、軍隊は戦いながら死ぬことを選ぶだろうと述べています。

そして何より、スピードが戦いの核心である、と孫子は言います。敵の準備不足を利用して、予期せぬ経路を辿り、無防備な場所や守備の弱い場所を攻撃します。雷のような早いスピードで行動し、敵が気づいた時にはもう近くにいるようにするのです。さらに、長引く遅れや長期間におよぶ戦いは、資源の枯渇や兵士の心境の変化など、たいてい悲劇につながることが多いと記しています。

このような戦法を記した孫子は、本名を「孫 武」といい、歴史上有名な武将であると同時に、軍事思想家としても名高く、本作『孫子』(日本語版名)は彼にとっての最大の著作であり、最高の兵法書です。ちなみに、孫子という称号は、”孫の師匠”を意味する敬称です。本作『孫子』については、事実かどうかの議論が今でもされており、さまざまな専門家の意見を取り入れた内容である可能性もあります。とはいえ、戦略や戦闘について書かれた最も著名な中国書物の一つであり、その概念は核心をついているからこそ、現代社会やビジネスにおいても応用されているのでしょう。

実際、本作は、戦争だけでなく、政治、ゲーム、ビジネスなど、人々の考え方に大きな影響を与え、話題を呼んでいます。というのも、問題を解決し、戦いに勝つための思想、精神論、心理学が示されているからでしょう。そしてこれは、道教(Taoism)と深く結びついています。陰と陽、生と死、行動と不作為に関わるものであり、だからこそ、孫子の兵法では戦わずして最大の勝利を収めることができるのです。

最後になりますが、孫子は、戦争の目的はあくまでも社会に平和と調和をもたらすことだ、と強調しています。「平和の中で戦争の準備をし、戦争の中で平和の準備をする」としたうえで、「兵法は国家の存続に必要不可欠であり、生死を分ける、安全か災難かの選択だ。そのため、どんな状況であっても戦争を見過ごすことはできない」と述べています。